2025.09.18
生活者研究
未来予測
『2030年の余暇』から考える:未来思考型マーケティングの実践

社会経済の先行きが不透明で変化のスピードが激しい現在、成長につながるビジネスチャンスを見出すのがますます難しくなっています。こうしたお悩みを持つ方に向けて、クレオでは独自のフレームを活用して未来ニーズを解像度高く描き、それを新市場・商品・サービス創出につなげる「未来思考型マーケティング」を提供しています。
参考「企業が未来を切り拓く市場創造の方法」(2024年12月)
フレームのご説明だけでは実際にどんなプロセスで新市場・商品・サービスのアイデアにつながるのか、イメージしにくい部分があるかもしれません。そこで今回は、「2030年の『余暇』」という切り口を例に、未来の余暇のニーズを把握するまでの流れをかいつまんでご紹介いたします。
1.「余暇」の定義と「余暇」を取り巻く状況
(1)「余暇=3次活動」はこの40年間で0.9時間増加
最初に本記事における余暇の定義と、余暇時間の長期トレンドを見てみます。
本記事では、総務省「社会生活基本調査」における「生活行動」の3区分(図1)に基づき、「各人の自由時間における活動」である3次活動を「余暇」と定義します。
図1:本記事における余暇の定義
3つの活動時間の長期推移を見ると、1981年から2021年にかけて、家事の時短、働き方改革などにより、家事や仕事が含まれる2次活動が減少しました。生理的に必要な活動である「1次活動」時間は大きく変化していません。これに伴い、3次活動(余暇)がこの40年間で0.9時間増えたことになります。
図2:行動種類別 総平均時間 推移(15歳以上,時間)
(2)「仕事より余暇」を重視する人の割合は右肩あがり
「余暇時間」の増加に加え、仕事と余暇に関する生活者の価値観にも変化が見られます。「仕事と余暇のどちらを重視するか」という質問に対して、「仕事より余暇を重視する」と答えた人の割合は年々伸長しています。2009年では50.5%だったのが2023年時点では65.7%に達しました。
図3:仕事と余暇のどちらを重視するか(%)
(3)今後、2次活動のデジタル代替で余暇活動はさらに拡大の見通し
現在、スマートロボットやAGI(汎用型人工知能)等の技術が目覚ましいスピードで発達しており、2030年には家事や介護の一部を遂行できるAIロボットや、人間に近い思考ができる汎用人工知能が登場するという予測もあります。
こうした技術が実用化した場合、家事や仕事といった義務的な2次活動がデジタル技術に代替されていくでしょう。上述した生活時間や価値観のトレンドも踏まえると、2030年にかけて生活者の余暇時間がさらに伸長する可能性が高く、そこにビジネスチャンスの芽があると考えられます。
2.「未来の余暇」ニーズ把握の流れ
(1)クレオの未来予測フレームの特徴
ここまで見てきたように、余暇時間の伸長が見込まれるなか、「余暇」に関連したビジネスチャンスにつなげるためには、「未来の余暇」を解像度高く描いていく必要があります。
今回は、以前のレポート「企業が未来を切り拓く市場創造の方法」(2024年12月)でも紹介したクレオの未来予測フレームを使って、「未来(ここでは2030年頃を想定)の余暇ニーズ」を考えていきます。
最初にクレオの未来予測フレームについて簡単にご説明します。クレオでは、「実現が予測される未来事象(マクロ環境)」からのバックキャスト的視点(STEP1)と、過去から現在にかけての長期価値観トレンドというフォアキャスト的視点(STEP2)で分析した後、この2つの視点を掛け合わせる(STEP3)という合計3ステップで解像度が高い未来ニーズを見出しています。
図4:クレオの未来予測フレーム
(2)STEP1:バックキャスト視点で未来の「余暇」の方向性を考える
STEP1では、まず未来のマクロ環境を分析します。気候変動、人口動態、政治、経済、技術といった要因が目指す未来(ここでは2030年頃)に向けてどう変化していくのか、長期的な変化を把握します。
次に、そうした変化を踏まえ、未来に生きる生活者がどんな暮らしをしているのか予測します。未来の暮らしの変化を描くことで、その中で「余暇」はどんな位置づけになるのかを発想しやすくなるというわけです。
例えば、今後気候変動がさらに進むことで、「季節の風物詩や旬を体験する」ということの希少価値が上がっていく可能性があります。そうすると、余暇の方向性として「季節や旬を『感じ、味わいつくす』」という方向性が強まりそうです。
図5:【STEP1】バックキャストによる「未来の余暇の方向性」導出イメージ
(3)STEP2:フォアキャスト視点で長期価値観トレンドを捉える
未来のマクロ環境に基づいた予測だけでは、見出した方向性が絵物語になってしまうかもしれません。より確実性の高い「未来の余暇」ニーズを導くためには、過去から現在までの生活者の長期価値観を把握し、今後も継続しそうなトレンドも同時に抑えることが重要です。その長期価値観トレンドを捉えるのがSTEP2です。
クレオでは、長年にわたり生活者の暮らしを研究しており、その一環として各年の生活価値観のポイントを「生活者マインド大全」という書籍で提言しています。こうした10年以上にわたる生活価値観研究の知見に基づき、直近約10年間で共通してみられる価値観を12の「長期価値観」として整理しています。
今回は、その「長期価値観」から「Japanism:日本の文化の捉えなおし/日本の良さを再発見・発信したい」に着目して、未来の余暇ニーズをさらに考えていくことにします。
図6:【STEP2】フォアキャストによる「長期価値観トレンド」導出イメージ
(4)STEP3:「未来の余暇の方向性」×「長期価値観トレンド」で「未来の余暇」ニーズを導出
最後に、これまで2つのSTEPで把握してきた「未来の余暇の方向性(バックキャスト視点)」と「長期価値観トレンド(フォアキャスト視点)」を掛け合わせ、「未来の余暇」ニーズを見出していきます。
ここでは、全12の長期価値観トレンドのうち先述した「Japanism」を例に掛け合わせのイメージをご説明します。
たとえば、STEP1で発想した「季節や旬を『感じ、味わいつくす』余暇」と「Japanism」を掛け合わせることで、「季節や節目を一期一会として楽しみたい・無常の美を味わいたい」という「瞬間美の追求」ニーズが導かれるかもしれません。
また、「『自分』をとことん見つめ直す余暇」と「Japanism」を掛け合わせることで、「余分なものをそぎ落とし自然との一体感のなか心身を整えたい」という「和空ミニマリズム」ニーズも見えてきます。
図7:【STEP3】「未来の余暇」の方向性×長期価値観トレンド(Japanism)で導出する「未来の余暇」ニーズ
実際には、STEP1で「未来の余暇の方向性」はもっと多く発想されます。また、掛け合わせる長期価値観トレンドも12ありますので、掛け合わせた結果非常に多くのシーズが出てきます。そのシーズを「未来ニーズ」に昇華する際には、図8に示したような先進事例や未来に向けた変化の兆しも参考にします。
例えば、「瞬間美を追求」に関しては、現時点で生成AIによる観光モデルコース提案や気象データの観光動態分析が行われています。こうした事例を踏まえると、2030年ではデータ駆動型サービスによる支援によって生活者が季節や旬を最適なタイミングで楽しめる、という余暇のありかたに納得感が出てきます。
また、「和空ミニマリズム」については、自室を「禅」の空間にするインテリア商品が展開される、マンションの一室のような狭い空間でもデジタル森林浴ができるイマーシブ技術が実用化されている、などの動きがあります。こうした事例は、自室を没入空間とし、自分をじっくり見つめ直すという2030年の生活者の姿がよりいきいきと見えてきます。
このように、様々な材料に基づき、多くのシーズから「2030年に実現しそうなもの」を見極めて「未来ニーズ」を描くのです。
図8:掛け合わせで出てきたシーズを「未来の余暇ニーズ」に昇華する際に参考にする先進事例イメージ
3.最後に
本記事では、未来思考型マーケティングの進め方を、「未来の余暇」を切り口としてご説明してきました。以下のお申込みフォームからダウンロードできる無料レポートでは、記事の中で紹介した2つの未来の余暇ニーズから、実際の商品・サービスアイデアもご提案しています。ご興味がある方はぜひお申込みください。
なお、今回の記事は「未来思考型マーケティング」の全体像をお伝えすることを目的とおります。実際のご支援で行う議論や検討の内容を大幅に圧縮しておりますので、詳細についてご関心のある方は、ぜひ以下の「無料レポート」お申込みフォームからお問い合わせいただければ幸いです。
執筆者:マーケティング本部 R.K.
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